大人への片道

2002年9月2日
久しぶりに逢って飲みに行った幼馴染みは、1年前から34歳のバイト先の専務と付き合っていた。
不倫だった。
付き合ってからバイトの先輩から事実を教えてもらったのだと言う。

「理想のタイプは年上のおじさま」と断言する
彼女も、そして私も、
父親に怯えながら育った娘だった。
「戦後直後に生まれた男児」である私の父親は
少々偏りのある性格と短気と何も曲げない頑固さがあった。
私達兄妹は彼の目から隠れるようにして過ごした。
私が小学生の時は勉強が嫌いで成績も伸びてなかったので、父親の監視も凄かった。

友達と部屋で遊んでいた時 急に彼が入って来たかと思うと
隣の部屋に無理矢理引きずって行かれ
隣の友達にも聞こえるくらい大声でなじられ
問題集を投げつけられた。
解答を間違えれば 持っていた麺打ち棒で殴られたりもした。

兄は良く出来ていたため 比較されて罵倒されるのが常だった。
中学受験が間近になると、成績がなかなか上がらない私を
洗濯カゴで滅多打ちにし、1週間腫れが引かなかった時もある。



教育熱心だったんだろうと思う。よほど。
彼の理念ゆえの焦燥感と、それに叶わない子供が腹立たしかったのも知っている。


中学に入って勉強の仕方がわかり成績が上がった後は
彼の目の仇は、『出来の悪い』妹と
成績が下がっていった兄へと移っていた。



初めて息が出来た。と
思った

隣で彼らが殴られていたから



貴方の思いは知っている。



その幼馴染みも希望した中学に落ちて行けなかった頃から、親に見限られていた。
“失敗した”彼女の代わりに妹の方を溺愛し、彼女は迫害した。

警察官である父親は
家で彼女を殴らない日はほとんどなかったという。
母親は守ってくれなかった。
妹は姉を侮蔑視していた。

「私は男性に“父親像”を求めているのだと思う」
彼女は言う。
「自分を傷つけない存在が欲しかった」

自分を包み込めるくらいの包容力がある存在。
居場所。


だから彼を手放せないのだと。




「一度年上と付き合ったら、もう同級生や年下なんかと付き合えないよ」
っていうのが彼女の弁だ。
それは同感するところがある(笑)


自分と同年代となると、それこそまだまだ『若造』なのであった。
そんな“自分にいっぱいイッパイ”なオトコを、男性としては見れないんだと。


「自分に余裕が無いってことは、他人を許す範囲も狭いもの。相手を攻撃する可能性も高いってことじゃない」



男性に対して極端に恐怖心を抱くゆえに
そのセイフティーラインも臆病なくらい広かった。
男の“不機嫌な声”に過剰に反応し、
怒気に酷く怯える。



そこには「父親」があった。


自分を 家の中で
育て、
守り、
殴り、
抑え付ける






『抱擁』と『恐怖』を同時に持つ
その存在はきっと変わらない


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